商人舎

杉山昭次郎の「 流通 仙人日記」

 杉山昭次郎の「流通仙人日記」

【最終回】 スーパーマーケットのマーケティング Vol.41

2011年08月05日(金曜日)
カテゴリー:
  • スーパーマーケットの未来
  
2:53 PM

41. スーパーマーケットの未来

 実務家は具体化思考をするので、学者のような完全主義に陥らないで済む。計算書をつくる際にも、必ずしも理論的にはベストで仕上げなくても、自社としては、これで良いと思えば、そこで見切り発車をする。発車した後、節目節目で修正、調整を行いながら業績を残している。具体化思考の賜物である。

 実在の組織は、具体化思考によって、知識を蓄積し、知恵を出し合って、組織の知恵を生み出す修練を積み重ねてきた。結果として組織規模も大きくなり、質的にも成熟してきた。多くの組織は、今後も発展し続ける自信を高めている。反面、このままで良いのかという危機意識をもっている。危機意識があったからこそ、市場、社会の変化に対応し、自社の政策を改革してきたのである。また、今後も改革し得るのである。これが組織の具体化思考の知恵である。

 今後予測される組織の危機の1つに、派閥問題がある。これからは業界の再編成が進むであろう。その過程で、企業の統合、合併も多くなるだろう。企業の合併は、企業のもつ特性を組み合わせて、より強い企業体質をつくるために行うのである。しかし、その目論見は、上手くいくとは限らない。2つの組織文化を組み合わせるとカルチャーギャップが不協和音を鳴らす。

 合併をしないでも、企業が拡大すると、社長派と専務派、または財務畑と営業畑というような派閥が自然にできあがり、不協和音を奏でるようになる。これらの不協和音は、業績が上がれば、予算達成度が安定すれば、自然に解消する。逆に予算コントロールができなくなると、不協和音は多く、かつ大きくなる。

 組織文化、企業イメージ、経営業績の3者はスパイラルに上昇もすれば、下降もする。上昇を続けるには、時間もエネルギーも必要だが、下降しだすと加速され、なすすべがなくなる。常に上昇を続ける努力が肝要である。また3者のいずれかに陰りが表われたら、遅くならないうちに対策を打ち出すことを心がけねばなるまい。

 組織には、以上2つの問題解決の知恵が育っているはずである。万一、不足していたらこれを補充する知恵を出せばよい。知識商人とは、こんな知恵を出せる商人である。自分の不得意な領域のスキルが必要な場合には、仲間から助けてもらえる知恵を、仲間から協力を求められたら、自分の役割をただちに決められる知恵をもちあわせている人材である。

 現代化が進む、我が国の小売産業では、すぐれた知識商人が無数といえるほど大勢育っている。これらの人材が必ずや、今後企業に表われる数々の難問を、具体化思考による組織の知恵を使って切り開いてくれよう。明るいスーパーマーケットの未来が見えてくる。

 グローバリゼーション、多面化の問題も、考えてはみたい気もするが、あまり長くなりすぎるので、今回は割愛することにする。

 今後は、明るいスーパーマーケットの未来を夢見ながら、安んじて、釣り三昧と洒落こむこととする。

 ただ、脳の活性化のために、時々は書きたいとも思っている。

(了)

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.40

2011年07月13日(水曜日)
カテゴリー:
  • 組織の変容
  
3:15 PM

40. 組織の試行錯誤とそのメリット

● 試行錯誤による私自身の変化

 私は、試行錯誤を続けているうちに、私自身が変わりだしているのではないかと思い始めた。一口でいえば、脳が活性を取り戻しているような気がした。テレビで、スポーツを見ても、ドラマを見ても、ニュースを見ても、みんな面白くなかったのである。どの番組も試行錯誤を繰り返している。スポーツの選手も、コーチも、監督も、アナウンサーも、全て試行錯誤を続けている。

 サッカーのアジアカップでは、毎試合苦戦をしながら何とか勝ち残り、最後に優勝を勝ち取った。勝つことはもちろん、うれしかった。しかし、それと同じぐらいに、プレーぶりを見ているのが楽しかった。ゴールキーパーがレッドカードで退場させられた後、1点のビハインドを、1人欠いたままで、逆転したときには本当に感激した。キーパーが退場させられた時、これまでだったら、がっかりしてスイッチを切りたくなるような場面で、何とかしてくれ、何とかしてくれるだろうという気持ちで、ゲームを見続けた。苦渋にゆがんだ監督の顔が映像に浮かんだ。

 苦渋の中にも、何とかなる、何とかするという期待と、自信が読み取れる、素晴らしい顔であった。1点取り返した時、逆転した時にも、監督が映し出された。順次、監督の顔は自信にみなぎり、喜びにおおわれるように変わっていった。表情の変化がおもしろかった。これを映し出すカメラワークも面白かった。

 私の試行錯誤は、高齢化に伴いしぼんでいた脳に活性をもたらした。少し活性を取り戻した脳で、組織の試行錯誤を見直してみた。見直しに当たっては、少し工夫をした。

 これまでは、組織で試行錯誤を進める難しさに焦点を当て、その克服の仕方を考えていたが、これからは、組織の試行錯誤のメリットを考えることにしよう、そう思った。(こんな知恵がどこからわいてきたのかは分からない。脳の活性化の賜物であろう)

 組織のメリットを考えだしたら、すぐに、いくつものメリットが浮かび上がった。効果が大きい、時間が短くて済む、力強い、などなどである。組織で問題解決を続けてきたからこそ、今日のスーパーマーケット各社が存在しているのだ。50年前の食品スーパーと、今日のスーパーマーケットではどこが違う、なぜ違うのだと問われて、ただちに、的確に答えられる人はほとんどいないだろう。それほど、素晴らしい変化を遂げてきた。

●2つの側面から見たスーパーマーケットの変化

 この素晴らしさを、次の2つの側面から掘り下げてみよう。

 その1つは、知識と知恵の側面である。
知識は、個人とは比較にならないほど、組織には50年の間に豊富に蓄えられている。また知恵の出し方も、組織だからこそ巧みになっている。各人が持ち寄る知恵を調整し、組織の知恵とする方策も、組織が自然に身につけている。だからこそ、今日の企業組織ができ上がっているのである。

 現在の企業システムは、これからの難題を乗り越えるための基礎である。この基礎を修正、調整すれば難関は克服できる。そして組織はより成熟する。ただ、企業によっては、修正、調整するためのコンセプショナル・スキルが不足しているかもしれない。コンセプショナル・スキル不足の企業は、その補充策を考えればよい。

 そのくらいの知恵は出せる基礎はできているはずである。後は自信をもって実行するのみ。「案ずるより、産むが易し」である。

 2つ目の側面は、具体化と抽象化という思考法の側面である。
結論から先に述べると、実在の企業が当面する問題と、社内で計画をつくり実施すれば、学者や研究者が計画をつくり、企業が計画を検討してから実施するより、はるかに大きな実績を、はるかに短い時間で上げられるということである。

 実務家は日ごろから、現にある組織の中で、具体的な目標を設定し、その目標に向かって具体的な行動計画を作成し、実践している。つまり、思考法は具体化である。学者、研究者の思考方向は抽象化である。研究目的も抽象的にしか表現できないことが多く、目標足りえない。社会事象の研究者はしばしば具体的方向の思考も交えるが、思考の主流は抽象化の方向である。

 実務家も時には抽象化思考をする。年度末の統括的レビューを行う時などが好例であろう。

 コンセプショナル・スキルが必要なことを痛感する時がある。コンセプショナル・スキルの優れた人材は通常、スタッフなどと呼ばれる職位に配属されている。スタッフたちも常に抽象化思考をしているわけではない。逆に、具体化思考が主流で、主流の流れをよりよくするために、必要に応じ抽象化思考を取り入れるのである。

 主流をせき止めたり、逆流させようとするスタッフは、社内評論家として排斥される。

 以上が、実務の思考パターンのあらましである。

続きます

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スーパーマーケットのマーケティング Vol.39

2011年07月07日(木曜日)
カテゴリー:
  • 筆者からのメッセージ
  
2:02 PM

39. 「ときどきエッセイ」の執筆を振り返る

● なぜ「ときどきエッセイ」を書き始めたのか

 ここまで「マス・カスタマイゼーション」というコンセプトに基づく、「おいしさに焦点をおいた新戦略の仕方」を概説してきた。

 なお、拙稿の前半には、「マス・カスタマイゼーション」が生まれるまでの蓋然性を概説するために、相当量の紙数(時間も)を費やした。後半にも、組織の知恵とか組織のリーダーシップなどの解説に必要以上の紙数を費やし、読んでいる人は、拙稿の論旨に戸惑うことも少なくなかったであろう。

 実は私自身、長々と書き続けている間に、論旨が分からなくなって困却したことが多々あった。筆者が、論旨が分からなくなった論述を、読者が読んで戸惑うのは当然すぎるくらい当然である。大変なご迷惑をかけたことを、心からお詫びする次第である。

 しかし困却を繰り返すうちに、雑文を書き始めた動機をはっきり思いだした。その動機とは、引退時に残っていた思い、ばらばらな知識を整理することであった。マネジメントのコンセプト、理論、エピソードは、長い間に、不勉強な私でも相当、頭の中に溜まっていた。私なりに整理はしていたつもりでも、整理が不十分なので、それが、もやもやした思いとなっていたのである。

 結城さんから、雑文(ときどきエッセイ)の申し出があった時、死ぬまでには整理したいと思っていたので、良い機会とばかりに申し出を受け入れた。

 整理枠組みも考えずに書き始めた。枠組みは、書いているうちに決まってくるであろう、くらいに考えて書いていた。そのうちに、「このパートは、元クライアントAにはこのように、Bにはこのように話せばよかったな」というような気持ちがわいてきて、それなりに叙述法を少しずつ変えた。

 書き進むうちに、私の知らない読者、実務家、研究者の思惑も気になりだした。そして最後には、この拙稿は、私のもやもやを整理するために書いているのだから、読者の思惑は気にしない方がよい、と考えられるようになった。その時には、まとめ方の枠組みもおおよそ出来上がっていた。いずれ再整理したくなるという予感もあった。再整理に当たっては、読者から見て分かりやすさを主眼に、なるべくコンパクトにまとめよう。そしてコンパクトにまとめれば、私自身も、よりすっきりした感じがつかめるはず、という思いも浮かび上がっていた。

● 執筆の楽しさ

 一方、執筆を進めるうちに、いろいろな面白さ、楽しさを味わうことができた。

 一番面白かったことは、マーケティングの叙述の中で、スーパーマーケットのマーケティングとは食生活の向上に貢献すること(これは20年来言い続けてきた)と書きながら、日本の普通の家庭の食生活はおろか、私自身の家庭の食生活、子供の好みすら知らないことを発見したことであった。

 一瞬、頭が真っ白になるような驚きであった。筆が先に進まないどころか、何を考えているのか、何も考えていないのかも分からなくなってしまっていた。

 少し落ち着いてくると、面白くなり、おかしくなっていた。こんなことも知らなかったのか。知らないことにも気づいていなかったのか、というような心理である。なにしろ、面白くもあり、おかしくもあり、楽しくなっていた。

 このような楽しさは、書いているうちにたびたび経験した。執筆を続けていなければ味わえない楽しさである、その1つが、組織の知恵であった。

 難しさを乗り越えるための知恵を考えているうちに、ひょっと、「組織の知恵」という言葉が浮かんだ。個人の知恵と組織の知恵ではどこか違うんだろうと考えているうちに、私なりの組織の知恵のコンセプトが回りだしていた。コンセプトのまわりだす過程は本当に面白かった。

 こんな楽しさを継続的に味わうチャンスを与えてくれた結城さんに改めて、感謝の意を表したい。

続きます

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