商人舎

「物流業界」の基礎知識

「物流業界」の基礎知識

vol. 12 荷役を担う港湾運送やターミナル業界

2010年07月20日(火曜日)
カテゴリー:
  • 倉庫業界
  • 運輸業界
  
10:32 AM

★輸送の中継点に必要となる荷役の作業

船舶や航空機、鉄道といった輸送機関は、
国際間も含めた広域の輸送に使われるため、
発着荷主のいる都市と最寄りの鉄道駅や港湾、空港間の輸送のために、
他の輸送機関に荷物を積み替えることになる。

また、発荷主から着荷主まで
“ドア・ツー・ドア”の輸送が可能だといわれる自動車輸送でも、
一部の荷物を除いて、実際に同じトラックで全区間を運ぶわけではない。
通常は、コストも含めた輸送効率の面などから、
都市内の集荷配送は中小型トラック、
都市間の幹線輸送は大型のトラックというふうに使い分けられている。

そこで、輸送機関やトラックを変更し、
集めてきた荷物を方面別にまとめたり、
逆に大量に混載された荷物を仕分けしたりするために、
いったん積み降ろしたり、倉庫に保管するための荷役の作業が必要となる。

このような荷役の作業を担い、
輸送の中継点としての役割を果たしているのが、
駅や港湾、空港に設けられた物流ターミナルである。

荷役は輸送や保管と不可分の面があるため、
人類がモノを運ぶようになった時点から存在し、その歴史は古い。
モノが集散する宿場や港には、古くから荷役を行う人たちが必ず控えており、
その中から港湾運送事業者が生まれた。

陸上の物流が鉄道主体になると、
各駅で荷物を扱う通運会社(フォワーダーの前身)が誕生。
やがて、陸運の中心が自動車に移ると、
都市近郊の高速道路やバイパス沿いにトラックターミナルがつくられ、
陸運の中継点としての役割を果たすようになった。

現在、港湾運送事業者の数は940者弱(2006年度)。
地域性が強く、それぞれが地元の港湾を主体に事業を行っていて
各事業規模はあまり大きくないが、
事業者の営業収入を合計すると1兆円超となる
(2005年度、いずれも国交省調べ)。

一般トラックターミナルについては、
全国に17事業者、23か所(2006年度、国交省調べ)ある。
公共性も高いため官主導でつくられてきた経緯もあり、
自治体と民間の共同出資による第三セクターが多い。

空運の荷役については、輸送機関が飛行機ということで、
荷物自体の大きさや重量が限られているため、
航空機会社やフォワーダーなどが担うことが多く、
専門の荷役事業者が占める割合はあまり大きくない。

さて、小売業・サービス業の商品や原材料の供給などを
裏方として支える物流業界について、
12のテーマに分け14回にわたって紹介してきた。
拙い連載が、「知られざる」パートナーの理解に、
少しでも役立てていただけると幸いです。

最後になりましたが、この場を提供してくださった商人舎さんと、
読者の皆さんに心から感謝申し上げます。

(完)

〈by 二宮 護〉

コメント (0)

vol. 11 保管や流通加工などを行う倉庫業界

2010年07月13日(火曜日)
カテゴリー:
  • 倉庫業界
  
10:29 AM

★事業収入で1兆6000億円超の営業用倉庫

物流コストの3割強を占めるのが、保管コスト。
「保管」することにより、生産から消費までの「時間の隔たり」を埋め、
需要に応じたタイミングで供給するための需給調整が行われる。
物流上そうした機能を果たしているのが、倉庫事業だ。

倉庫は、保有者によって営業用倉庫、自家用倉庫など4種類に大別される。
わが国の全保管能力の2割弱程度を担っているのが、営業用倉庫だ。
そして、営業用倉庫は、「倉庫業法」で保管形態ごとに、
普通倉庫、冷蔵倉庫、水面倉庫などに分類されている。

約5300社の倉庫事業者のうち、
普通倉庫の事業者数は4100社あまり(2006年度)。
1965年から40年間を経て3.2倍に増えているが、
所管面(容)積についてはそれ以上に大きく増やしており、
1事業者当りの規模が拡大していることがわかる。

普通倉庫の入庫量と平均月末在庫量は、
2億3600万トンと3600万トン(2006年度)。
その内訳で突出したものはないが、化学工業品や食料工業品、
農水産品、雑工業品など、さまざまな工業製品が在庫として保管されている。

一方、冷蔵倉庫の事業者数は約1200社(2006年度)。
1975年からの30年間で数を少し減らしているが、
所管容積、入庫量、平均月末在庫量は各2倍強となっており、
こちらも1事業者の規模は拡大していることがわかる。

入庫量と平均月末在庫量は、1800万トンと280万トン(2006年度)。
そのうちの大半が食品で、
水産物、畜産物、農産物やそれらの加工品が多い。

倉庫では、保管することに加えて、
大量輸送されてきたモノを、輸・配送するために小分けしたり、
行き先別にまとめるなど輸送調整が行われることも多く、
包装や流通加工などといった、他の物流サービスを提供する
物流拠点としての役割も重要になっている。

国交省による倉庫事業の経営実態調査でも、
はっきりとその傾向がうかがえる。
普通倉庫業の事業別の売上構成を見ると、
普通倉庫事業は18.9%に過ぎず、貨物自動車運送事業15.9%、
港湾運送事業15.5%、利用運送事業13.1%と
輸送や荷役の比率が高まっている。

一方、冷蔵倉庫業では、
冷蔵倉庫事業が19.6%とやはり全体の2割を切り、
食品事業(食品加工・販売)が54.1%、
利用運送事業が10.6%となっている(いずれも2007年度)。

さらに、倉庫部門の収支を保管・荷役別に見ると、
普通倉庫業の1社平均の経常収益は、保管部分が8億9860万円、
荷役部分が6億4760万円。
冷蔵倉庫業では、同じく9億2080万円と5億1690万円と、
荷役部分のウエートもかなり高い。

倉庫業界全体は、営業収入で1兆6000億円超、
従業員数で10万名という規模となっている。

なお、近年、自家用か営業用かにかかわらず、
いわゆる物流センターや配送センターと呼ばれる
物流拠点をもつ企業も増えている。
倉庫とは単なるネーミングの違いというケースもあるが、
一般的に、倉庫は比較的長期の保管を行うもの、
物流センターや配送センターは、近々に出荷する在庫を留め置いて
流通加工などを行うものということができるだろう。

(続きます)

〈by 二宮 護〉

コメント (0)

vol. 10 高付加価値商品の輸送に長じる空運業界

2010年07月06日(火曜日)
カテゴリー:
  • 運輸業界
  
10:25 AM

★国際輸送で存在感を高める航空輸送

貨物輸送において、スピードと確実性に優れているのが航空輸送だ。
航空機の大型化や増便などで輸送量を増やしてはいるが、
いかんせん他の輸送機関に比べて1回当りの輸送量が少なく、
量的な面で存在感を示すにはむずかしい面がある。

航空機による国内の貨物輸送量は、
2007年度で114万6000トン、11億4600万トンキロ。
輸送機関別の分担率は、それぞれ0.02%と0.2%であった。

だが、平均輸送距離は1045.5キロと、他の国内輸送機関より断然長い。
鉄道や内航海運の2倍以上、自動車と比較すると14.5倍である。
高コストながら、小さくて軽いものであれば遠距離を短時日で輸送でき、
輸送事業の一部のニーズに応える役割を担っているのだ。

一方、国際空運の輸送量は、07年度が315万2140トンであった
(うち輸出が160万6150トン、輸入が154万5990トン)。
このうちのわが国の空運事業者分が137万6070トン、
トンキロベースでは85億186万トンキロとなっている
(定期分で、超過手荷物分および郵便物を除く)。

その方面別の内訳は、アジア、米大陸、中国がそれぞれ20%を超え、
欧州が10%台で続いている。
大きく伸びているのは中国、韓国で、その他アジア、欧州方面では微増、
台湾、米大陸、太平洋、オセアニアは減少している。

航空輸送の大きな特徴は、小さく軽く貴重なものを運ぶのが得意なこと。
そこで、重量ベースではなく金額ベースで国際貨物輸送の状況を見ると、
1980年の船舶輸送と航空輸送の分担率は、91.4%対8.6%だったが、
徐々に分担率の差を縮めて、2006年には72%対28%で分け合うまでに
航空輸送が存在感を増している。

国際貨物の総輸送量のうち、航空機による割合を「航空化率」というが、
輸入ではダイヤモンド、貴石、航空機、半導体等電子部品、
航空機用内燃機関は、いずれも航空化率が96%を超えている。
また輸出では、真珠、半導体等電子部品、映像機器、科学光学機器、
医薬品などの航空化率が60%以上となっている(06年度。金額ベース)。

このように、国際航空輸送はここ20~30年で大きく勢力を拡大している。
その理由には、上記のように半導体等電子部品といった、
小さく軽量で高額な貨物の輸送が増えていることが一つ。
加えて「クーリエ」や「S/P(スモール・パッケージ)」と呼ばれる、
企業間中心の国際宅配便サービス(契約書や商品サンプルなどを運ぶ)で、
航空輸送が広く使われるようになったことなどがあり、
今後の拡大も大いに期待されている。

空運市場には、貨物輸送専門の航空会社だけでなく、
旅客輸送を兼業する航空会社やフォワーダー(本連載の7回目参照)、
「インテグレーター」と呼ばれる外国資本の巨大な総合物流会社
(UPSやフェデックス等)などが参入している。

日本では、フォワーダー以外の70数社の空運事業者のうち、
貨物の輸送実績のある定期航空輸送事業者は20社あり、
その営業収入の合計は3971億円(06年度)である。

(続きます)

〈by 二宮 護〉

コメント (0)
前のページ>
商人舎サイトマップ お問い合わせ
二宮護プロフィール

1953年秋田市生まれ。
1978年に早稲田大学商学部を卒業しビジネス系出版社に入社。
月刊の経営情報誌の記者として取材執筆活動を行う。その後、書籍の編集に携わり、書籍編集長、ムック編集長を歴任し、2000年に独立。現在はフリーで書籍の企画・制作のかたわら経営誌等で執筆を続けている。執筆を担当した書籍も『JR・私鉄・運輸』(産学社・産業と会社研究シリーズ)など多数。
最新刊は『物流業界大研究』(産学社刊)

最新刊
二宮護の最新書籍
好評発売中!!
カレンダー
2015年4月
月 火 水 木 金 土 日
« 7月    
 12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
27282930  
指定月の記事を読む
カテゴリー
  • 倉庫業界 (2)
  • 物流業界 (6)
  • 運輸業界 (7)
最新記事
  • 2010年07月20日(火曜日)
    vol. 12 荷役を担う港湾運送やターミナル業界
  • 2010年07月13日(火曜日)
    vol. 11 保管や流通加工などを行う倉庫業界
  • 2010年07月06日(火曜日)
    vol. 10 高付加価値商品の輸送に長じる空運業界
  • 2010年06月29日(火曜日)
    vol. 09 貿易や産業基盤輸送を担う海運業界
  • 2010年06月22日(火曜日)
    vol. 08-3 大量の貨物を長距離運ぶ鉄道輸送業界
最新コメント
  • 2012年06月28日(木曜日)
    Mac :vol. 06 自社物流も含めた「物流」の市...にコメントしました
  • 2012年04月12日(木曜日)
    Trad :vol. 04 物流とロジスティクス、SCMは...にコメントしました
  • ホームに戻る
  • トップに戻る
  • 友達・上司・部下に知らせる

掲載の記事・写真・動画等の無断転載を禁じます。
Copyright © 2008-2014 Shoninsha Co., Ltd. All rights reserved.